「丁寧すぎる確認」の弊害

たまには真面目に、最近いろいろと考えていることをエントリにしてみたいと思います。



受託制作の仕事をしていると「クライアントとの仕様調整」というタスクはしょっちゅう発生します。

仕様調整の業務を担当する「Webディレクター」や「開発リーダー」に相当する方々。彼らの仕事の進め方も実に多種多様で非常に興味深く感じているのですが、たまに「確認がやたら丁寧すぎる」という種類の人に遭遇することがあります。


電話一本で出来る仕様確認の作業に対して、わざわざ丁寧にパワーポイントの資料を作り、その資料メールに添付して送付し、さらに電話で口頭説明し…。

で、そのような確認のしかたをしているディレクターの人に話を聞いてみると「仕様に齟齬があって作業が巻き戻ると大変だから、ちゃんと伝わっているかしっかり確認してるんです」という意見が決まって出てきます。

仕様をしっかり確認すること、そりゃあ大事さ

確かに、万が一仕様の勘違いがあった場合の巻き戻りリスクの大きい部分については、詳細にメリット/デメリットを並べてどうすべきかをしっかりとクライアントに選択してもらう必要があります。至極真っ当な話です。

実装しなければならない機能が丸々抜け落ちていたり、データベースの構造が大きく変わってしまうようなレベルの仕様の勘違いが発生したり、このようなことを繰り返して死の行進まっしぐら・・・というようなプロジェクトを、これまでにいくつも目にしてきました。

リスクマネジメントの問題

しかしながら「リンクを画面上におくのか、それとも画面下におくのか」とか「画面の項目をどの順番に並べるのか」とかいう非常に細かい内容についてまで、逐一詳細に確認しようとする人がたまーにいます。

細かい部分に対してくまなく詳細な確認を繰り返してたら永遠に終わらないのは明らかですよね。当然スケジュールは遅延。そういう人に限って「クライアントの仕様確認が遅かったからスケジュールに間に合わなかったんだ!!」という言い訳をすることが多い。いや、それそんなに大量に案を並べられたら、誰だって迷うでしょうに…。

(デザイン的なバランスはさておいて)「リンクを上に置くか下に置くか」を取り違えることによって生じる追加の手間はごくわずかですし、クライアントがわざわざそれにこだわる可能性もごくわずかで、「齟齬があった場合の手間」とのバランスを考慮しなければならない、という事実が往々にして見落とされている…という点が非常に残念に感じたりするのです。

これはまさに「リスクマネジメント」の領域の話で、「仕様の齟齬により作業の巻き戻りが発生する」というリスクにも大小あり、充分小さいリスクに対しては、あえて見過ごすという選択も必要になってくるのではと思います。

判断材料にノイズを増やすことの弊害

仕事柄iOSのアプリを実装することも多いのですが、iOSアプリのほとんどにおいて「前の画面に戻る」機能を持ったボタンは「画面の左上」に付いています。

iOS SDKのUINavigationControllerの仕様がそうなってるから」とか「iOSのヒューマンインターフェースガイドラインにそういう記載があるから」とかいう理由に加え「大半のiOSアプリでは戻るボタンは左上に付いているから、iOSに慣れている大半のユーザはそれを自然なものとして捉えている」だあろうことは、容易に想像が付くはずです。

ところがそれに対し、「戻るボタンは左上に付けるか左下につけるか右上につけるか右下につけるか、はたまたメニューの中に戻るメニューを入れるか、それそれのメリット/デメリットは…」などと長々と資料を作りクライアントに見せてしまう。そんな明らかな筋が悪い確認の仕方をしてしまう人も、一部には存在します。

非常にまれなケースでは、戻るボタンの位置も確認の余地はあるかもしれません。「戻るボタンが左上にあることでなんらかの大きな誤解を招く恐れがある」とか「別の場所に置くことでより大事な意味合いを持たせたい」とか。

ただし多くのiOSアプリにおいては、そこにこだわりを持つことには大きな意味はなく、細かい仕様の確認をせずに戻るボタンを左上に置いた画面仕様を作り、「これはこういうもんだよね」でさらりと流してしまうのが普通かと思います。

それを逆に「立派な資料」で問いただされることにより、クライアントにとっては「大して重要でもない選択」が「とても重要な選択」に感じられてしまう可能性があります。

「戻るボタンを左下に付けることにもメリットはあるのか??」とか「メニューの中にも戻る機能を付けておいたほうが便利なのでは??」とか、本質とは外れた方向でクライアントの苦悩が増えてしまうのです。

このように「選択肢は多ければ多いほどよい」という考え方には、「余計な情報が含まれていて逆に判断を阻害する」という可能性は考慮されていないことが多いのでは、と思います。

「丁寧すぎる人」への対策はあるか

普段からこのような「丁寧すぎる確認」に慣れてしまった人にとって、「そこは手を抜いて簡単にやってしまえばいいのでは?」と意見を投げかけると、大抵はとても嫌な顔をされます。「自分がこんなに一生懸命やっているのに、お前は手を抜けというのか?」と言わんばかりの顔。

「クライアントの判断を阻害している」というデメリットも、「これだけ有益な判断材料を提供しているのに、まともに決められないクライアントが悪い」というような方向に考えてしまっているようで、自覚を促すのは困難を極めることが多いなぁと感じています。

「丁寧すぎる確認作業」はプロジェクト的には明らかに無駄な作業であり、「無駄なコスト」以上のなにものでもないと思うのですが、なんとか出来る対策がなかなか見つからないのは悩ましい限りであります。なんとかなるもんなら誰か教えて欲しいです。ほんと。